- 手作りランプシェードの作り方①〜比較的シンプルな型を、出来るだけ詳しく、写真多めでご紹介
- 手作りランプシェードの作り方②〜布シェード製作に必要な生地の大きさ
- 手作りランプシェードの作り方③〜布シェードの『型』と生地の『柄』の相性
ランプシェードの使い方を知りたい方は
用尺の基本
ランプシェードのオーダーメイド、張替え、いずれにも共通する工程に、シェードの生地選びがあります。
この生地選びに関して、お客様に知っておいて頂くと、打ち合わせがスムーズにいくと思い、記事にしてみました。
また、この『手作りランプシェードの作り方』シリーズはDIYの方の参考になれば、とも思っています。
用尺の考え方
「用尺」とは、シェードを作る際に必要な布地の大きさのことです。
もしかしたら、出来上がりのシェードの布を展開した形、笠屋の感覚ではシェードの型で抜いた状態の生地の大きさ、を思い浮かべた方もいらっしゃるかと思いますが、それは「用尺」ではありません。
洋裁などする方はご存知だと思いますが、生地は決まった幅のロールから、長さを指定して購入します。
ランプシェードに使用する布地は、洋裁向けの一般的な布幅である90cm~100cm程度のもの、カーテン用など160cm程度のもの等、様々あります。
いずれにせよ、この既定の布幅のロールから、必要な「長さ」分だけ切り出した、長方形の生地の大きさを「用尺」と呼びます。
長さも既定の単位がある
さて、必要な「長さ」分だけ切り出すと書きましたが、生地屋さんでは切り出す単位にも既定があります。
高級な生地であったり、あるいは生地屋さんによっては、10cm単位で販売していることもありますが、1m単位で販売されていることもよくあります。
必要な用尺が、極端な話、例えば巾100cm×丈101cmであった場合でも、丈110cm、場合によっては丈2mで購入することになります。
ランプシェード製作に必要な生地の大きさ
型の大きさ+30cm
生地の購入の事情で、特に洋裁をされる方々は、比較的大きな端切れをストックしていることも多いと思います。
お持ちの端切れを利用してランプシェードを製作・張替えをしたいと弊社に生地を持ち込まれるお客様もいらしゃいます。
ところが、打ち合わせを進めるうちに、肝心の生地の大きさが足りないという事態になることが、ままあります。
この記事では、ランプシェードに必要な生地の大きさに関して少し詳しく考えていきたいと思います。
まず、一応の目安として、ランプシェード製作には最低限、
『出来上がりの寸法+30cm』
が必要になると考えてください。
製作手順を見ながら生地を考える
生地の下拵えと貼り合わせにフォーカス
以前も、製作手順を追った記事を書きました。
この時には、
- 生地の下拵え
- 貼り合わせ
- 枠入れ
- 仕上げ
と言う、全工程を追いかけましたが、今回はそのうちの『生地の下拵え』と『貼り合わせ』の工程だけ製作してみます。
この工程を見ていくことで、生地を選ぶ際のポイントや必要な大きさの考え方を共有していきたいと考えています。
今回はテーパーの付いた型
型の製作
前回は型のシンプルな物を作ろうと、寸胴型のシェードを選択しましたが、今回はより一般的なテーパーの付いたシェードを作ります。
上径30cm・下径48cm・高さ28cmのオーソドックスな笠です。
特殊なサイズや形状の場合は、この型から製作していきます。
今回は、弊社でよく使う形状ですので、有り物の型を使用します。
上の写真が、生地を切り抜く『型』です。
厳密には、今回切り抜くのは裏張りですが・・・。
裏張り用フィルムの切り出し
型を使って、裏張り用のフィルムを切り出します。
このフィルムは、全体がシールになっており、剥離紙を剥がすことで直接生地に貼り付けることが出来ます。
この裏張り用フィルムを貼る工法は、笠の堅牢性・耐久性が上がることは勿論なのですが、一番のメリットは、作業性のアップによるコストダウンがあげられると思います。
弊社では、縫製による伝統的な布シェードの製作も承っておりますが、やはり、圧倒的に手間がかかります。
コストは時に数倍になってしまうため、お客様の拘りとご予算とのバランスで、こちらの裏張り用のフィルムを用いた製作も多くなっております。
DIYの方には、難易度の点から、この裏張りフィルムを用いた方法をお勧めします。
シールタイプのフィルムの入手さえできれば、あるいはシールでなくても上手に生地に貼ることができれば、生地のヨレや伸びが無くなりますので、その後の作業が格段に楽になります。
フィルムの位置決め
フィルムの貼り付けですが、シールタイプのフィルムなので貼るのは簡単なように思えますが、案外気を使う箇所が有ります。
その1つが位置決めです。
特に大きな柄や、モチーフの図柄のある生地の場合、位置決めに気を遣うのは納得していただけると思います。
まずは次の写真の生地での位置決めを考えます。
大きなモチーフとして白・グレー2種のサル、無視しづらい大きさのモチーフとしてこれもまた2種のトリ、比較的背景に近い木の幹や花・葉がプリントされています。
これら、複数のモチーフのある絵柄は最も切り出す位置に悩みます。
わかりやすく、型と同型に切り出した透明シートで位置を決めてみましょう。
もし、「生地の用尺優先」であれば、次のパターンでしょう。
このパターンでは、思い切ってグレーのサルを外し、白のサルと2種のトリをキレイに収める方向性での位置取りとなります。
今回の生地のプリントパターンではグレーのサルを中心に考えるとレイアウトがかなり難しくなります。
逆にこれを外すと非常に楽になり、3つのモチーフが比較的型の中心近くで収まります。
こちらのパターンは型をほとんど水平に配置していますので、用尺を小さく取れますので、コストを抑えられる可能性も出てきます。
もし「モチーフ優先」であれば、2種のサル・トリのモチーフ全てを型の中に収める方向で、位置決めします。
頑張って収めようとしますが、ここまで傾けても厳しいですね。
最終的に、かなり型を傾けた位置で決めました。
実際の位置取りは次の章でお見せします。
裏張り用フィルムの貼り付け
位置決めが出来たら、裏張りを貼り付けます。
どうでしょう?
モチーフの収まり的にベストかな?と思える位置が見つかりました。
ただし、あくまで「ベストかな?」です。
貼り合わせを前にして、また違った懸念が出てきます。
この懸念については、また別の記事で書くつもりです。
取り敢えず、懸念は脇に置いて、作業を進めます。
生地の切り抜きから貼り合わせまで一気に
弊社オリジナルの治具を使い、のりしろを残しつつ切り抜きます。
この治具に関しては、スピードアップのための物なので、自作の方がわざわざ用意する必要は全くありません。
のりしろは、前回同様、フレームに巻き込める程度の幅があればいいので、フレームの太さに合わせて適切に残してください。
両端は裏張りに合わせて切ってもいいのですが、ちょっと気を利かせて、上の最後の写真の様に、片側だけでも少し残して裏に折り込むと、裏張りが完全に隠れて、貼り合わせ箇所がスマートです。
この端の処理、大した違いではないかもしれませんが、職人ならばやらない理由はありません。
手前共としますと、こうしたちょっとの違いの積み重ねが、職人仕事の醍醐味の一つだと思っているんですが、特に量産品ではコスト優先の流れの中で、この類いの手間すら省かなければならないケースが増えているのも事実です。
オーダーメイド、張替えをご用命くださる、物にコダワリのある方々や、DIYの強者の方々は是非、この辺りの細かい仕事を楽しんで頂きたいと思います。
例の如く、秘伝のタレでつけたら、貼り合わせ完成です
完成
私は笠屋ですから日々の作業を繰り返すうちに、型の形に切り出した平面の状態の生地から、立体になったシェードをイメージする精度も当然それなりに高いんだと思うんです。
実物を目の前にした私の感想も、「まあまあ、こんなもんだろうな。」と言った感じですが、皆さんはどうだったでしょう?
「あれ?思っていたのと違う」となりがちですよね。
裏張り用フィルムの位置決めしている時は、平面の生地を見ながら出来るだけ正確に、この状態をイメージしなくてはいけません。
再び必要な生地の大きさについて
「ランプシェード製作には最低限、『出来上がりの寸法+30cm』が必要」
だいぶ前に結論が出ていたはずなんですが、その後に製作手順を追って頂いた今、この結論に決定的な根拠は無いと言うことが、バレてしまいました。
製作手順を見ていただけるとお分かりいただけると思いますが、必要な生地の大きさは、出来上がり寸法から自動的に決まるようなものではありません。
今回のように、大きなモチーフのある生地の場合などは特に、貼り合わせの時に絵柄が美しく配置されるよう、切り抜く位置を調節できる程度の余裕が欲しいのです。
そして、その余裕がどの位必要なのかは、シェードの形や工法や型の種類、生地のパターンやモチーフの大きさやリピートパターンの大きさやブランク(空白)の位置や・・・、と、ある程度仕様が確定していかないと、一言でお伝えしづらいのです。
元はと言えば自業自得なのですが、オーダーメイドや張替えに際して「持ち込みの生地でも承ります」とアナウンスしてしまいました。
勿論、本当に承りますが、当然問合せくださるお客様は「持ち込みの生地はどのくらいの大きさが必要?」ってお聞きになります。
極々自然な質問でしょう。
でも、その質問に笠屋が「形状・工法・生地の絵柄の組み合わせ、あるいは予算などと共に、仕様を確定していく中で決まっていくパラメータ的要素の一つが『生地の大きさ』なので、今の段階で具体的なサイズは言いづらいです」って答えたら・・・。
そりゃ「エ!?」ってなりますよね。
そこで、当座の方便として『出来上がりの寸法+30cm』が出来上がった訳です。
実は今までは、これでなんとかなってきちゃいました。
それしか無ければ無いで、有る中でのベストを探すので、「もう少し大きかったら」という発想にはいかなかったと言うのが実情です。
と言うことは『出来上がりの寸法+30cm』も、いい線ではあるのでしょう。
が、やはり笠屋にとっての生地の大きさに対する考えを、お客様と共有できれば、よりスムーズに打ち合わせに入れるのは間違いないはずだと思い、この記事を書きました。
まとめ
ランプシェード製作では、シェードの形・作り方と使用する生地の価格・絵柄・用尺、これら製作に関する複数の要素の組み合わせを探りながら、予算と希望の理想的なバランスを追求していきます。
次回は、『生地の選び方』について書きたいと思います。
型や工法、型と生地の相性、コストとの関係など、ランプシェード製作の現場を見ていく中で考えたいと思います。
今回のテーマである『必要な生地の大きさ』は、次回のテーマとも関係しています。