張替えは「修理」じゃない
「張替えって、やってもらえますか?」
この問い合わせを受けるたびに、嬉しくなります。
それは「壊れたから直したい」というよりも、
もっと別の感情がこもった言葉のような気がしています。
ランプシェードにとっての張替えは、たとえば障子に似ています。
破れたり汚れたりしたから、仕方なく直す──
というよりも、
季節が変わるから、
気分を変えたくなったから、
ふとした節目で、「もう一度、整えてみよう」と思ったから。
それはつまり、「使い続けたい」という意志の表れでもあります。
張替えは、製品との再会
照明というのは「生活の背景」になりやすい製品です。
毎日見ていても、意識に残りにくい。
あって当たり前。
点いて当然。
でも、その布がくたびれたり、少し色褪せたりしてくると、
ふとその存在を意識する瞬間が訪れます。
「ちょっと、張り替えてみようかな」
そのとき、私たちの元に連絡が届く。
それは、単に不具合を訴える問い合わせではなく、
むしろ「もう一度、あなたの製品と向き合いたい」という
再会の申し出のように、私たちは受け取っています。
張替えは、気分の更新
実際、張替えの多くは“壊れているから”ではありません。
・色を変えたい
・模様替えをしたら雰囲気が合わなくなった
・布の印象を少し変えたい
・季節に合わせて透け感を調整したい
──そういった理由でご依頼をいただくこともあります。
つまり、張替えは機能の回復ではなく、空間との再調整。
暮らしの中で、照明の「立ち位置」をもう一度見直す時間。
言い換えれば、照明が再び“余白”として整えられる瞬間です。
私たちが張替えを受ける理由
もちろん、ランプシェードの張替えは簡単ではありません。
製造当初の構造や素材によっては、分解が難しいものもありますし、
年数による劣化や変形があれば、それに合わせた処置も必要になります。
でも、それでも、私たちはできるかぎり張替えを引き受けています。
なぜなら──
それが「長く使ってもらう」という言葉の、本当の意味だからです。
つくって、売って、終わり。
それでは、製品はただの「物」でしかない。
でも、使って、飽きて、でも「まだ手放せない」と思ってもらえるなら、
その製品は、もう「関係」になっている。
そしてその関係に、もう一度手を入れたいと思ってもらえることほど、
作り手として嬉しいことはありません。
張替えを前提にした設計
実は、私たちの製品は張替えができるように設計されています。
・骨組みと布を分解できる構造
・ビスを極力“見えない位置”に配置しつつ、取り外しを可能に
・粘着ではなくテンションで布を張る方法の採用
そうした設計の細部には、「壊れにくさ」ではなく「再構成しやすさ」を盛り込んでいます。
照明を“壊れない”ようにつくるのはもちろんですが、
“もう一度組み替えられる”ようにしておくことで、
時間の中で更新されていく製品になる。
張替えとはつまり、
「使い手の暮らしの変化に、製品を合わせなおす」作業なのです。
照明を「共に暮らす」ものにするために
たとえば、障子を貼り替えるとき、
そこにあるのは機能の修復ではなく、空間の再編集です。
張替えは、そういう営みに近い。
それはどこか、贅沢で、でもとても自然な行為。
──暮らしの中で、ふと気づく。
「あ、張り替えようかな」
その声が届いたとき、私たちはまた、その製品の「はじまり」に立ち会うことができます。
それは、作り手としての私たちにとって、最高の瞬間です。
長く付き合うということ
張替えのご依頼をいただいたとき、製品の状態を確認すると、たいてい、思っていた以上に丁寧に使っていただいていることに気づきます。
日焼けしていたり、布が少し浮いていたりはするけれど、骨組みはきちんと保たれ、埃も最小限。
あぁ、大切にされてきたんだな、と思う。
それは単なる“使用状態”ではなく、付き合い方の痕跡なのかもしれません。
愛着とは、変化に寄り添い続けること
どんなに気に入って購入した製品でも、最初の感動は、時間とともに薄れていきます。
でも、気づけばずっとそこにある。
ふと目をやると「あ、やっぱりいいな」と思える。
そんな存在になるためには、変わりゆく暮らしに応答し続けることが必要です。
だからこそ、張替えという仕組みは、単なるサービスではなく、
「関係の続き方」そのものでもあると思っています。
張替えは、関係を成熟させる装置
製品をもう一度見つめ直し、少しだけ手を加えて、
新しい気持ちで同じものを迎え入れる。
それはある意味で、「買い直す」よりもずっと深い行為です。
一度手放しかけたものを、もう一度自分の手に取り戻すこと。
私たちの照明が、そんな風に「更新されながら続いていく関係」の中にあってくれるなら、
それは、製品としてとても幸せなことです。
「長く使える」ではなく、「長く付き合える」ものを
私たちが目指したいのは、「耐久性」だけではありません。
“変わっていく暮らしのなかで、一緒に変わっていける製品”。
そのために、張替えがある。
そのために、直せる構造がある。
そのために、「また使いたい」と思ってもらえる余白を残しておく。
張替えは、単なる再生ではなく、愛着を成熟させる時間なのだと思います。