製品を売る前に、製品を読んでもらう

20周年連載 第0回|プロローグ


はじめに:連載スタートの宣言

弊社、有限会社スイッチは、来年創業20周年を迎えます。

2006年、最初の一枚のランプシェードを手づくりで仕上げたその日から、今日まで。
20年という時間が経ったことに、私たち自身が少し驚いています。
ですが、それはただ長く続いたというよりも、「作り続けること」が日々の営みとなっていたからだと思います。

この連載では、これまでの歩みを改めて振り返りながら、モノづくりの現場で起きていたこと、考えてきたことを、ゆっくりと言葉にしていきます。


なぜ、「製品を売るより価値を見せる」ことを掲げたのか

ちょうど10年前の2015年、有限会社スイッチは初めてWebサイトを立ち上げました。
ECの波が急速に広がるなかで、私たちも「製品をオンラインで売る」という選択肢を前に、ひとつの言葉を掲げました。

――製品を売る前に、製品の価値を見せる。

これは今思えば、ひとつの“賭け”でもありました。
価格やスペックで比較されるモノづくりの世界で、「見えない価値」にどこまで目を向けてもらえるのか?


ものづくりは、物が大事なわけじゃない

ランプシェードという製品は、光が当たってはじめて“見える”ものです。
けれど、その「かたち」には、素材や工程、関わった人たちの時間が積み重なっています。

製品とは、結果でしかありません。
重要なのは、その背景にある選択と、関係と、手の感覚。
私たちは、「ものをつくる」ということの重心を、常に“過程”に置いてきました。


Webサイト立ち上げのコンセプト

Webという場に何ができるのか。

私たちが当時信じたのは、「売る」ことよりも、「伝える」ことにWebを使うという選択でした。
笠や素材、手の動き、その背後にある関係や工程を、できる限り丁寧に言葉と写真で記録し、それをWebに載せる。

ありがたいことに、そのサイトを見て工房に来てくれる人が増えました。
買う前に「読んでくれる」お客様が増えました。
それは、弊社にとって、とても大きなことでした。


何を見せたいのか

スペックや価格では伝えきれない「関係の重なり」。

どんな素材を選んだか、なぜその手順を採ったか、どの町工場とどんなやりとりがあったか。

そうした細部にこそ、私たちが考える“製品の価値”は宿っています。


手応えと課題

この10年、ありがたいことに多くの反響をいただきました。
共感してくれる声もありましたし、メールのやり取りや、修理依頼を通して、製品が「時間の中で生きている」ことを実感する場面もありました。

けれど、日々の製作に追われるなかで、当初掲げたその言葉
――「製品の価値を見せる」
という姿勢が、少しずつ霞んでいたことも否めません。


これから見せるべきこと

だからこの連載は、その言葉にもう一度立ち返るための試みです。

20年続けてきたなかで、私たちが出会った人、素材、道具、失敗、手の感覚。
製品そのものではなく、製品の背景にあるものを、改めて一つずつ言葉にしていく。

そしてそれが、これから「灯り」に出会う人たちにとっての何かしらの手掛かりになればと思っています。
価値は、価格ではなく、関係のなかで立ち上がってくるものだからです。

この連載では、弊社の歴史を「年表」ではなく、「関係」の積み重ねとして描いていきます。
素材との関係、工場との関係、お客様との関係、そして場所や時間との関係。

ぜひ、ゆっくりと読んでいただけたら嬉しいです。